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高齢化社会における住まいの課題:リフォームがつなぐ親子のビンテージストーリー③

高齢者が安心して暮らせる住まいを考える際、改善の目安となるポイントは大きく分けて4つあります。それは「段差」「狭さ」「寒さ」「床生活」の4点です。 昔ながらの木造在来工法で建てられた家では、段差が多く、つまずきやすい状況が目立ちます。また、尺貫法に基づく寸法で建築された家は、通路や扉の幅が狭いことが多く、和室を細かく仕切っている場合もあります。これが高齢者にとって動きにくい環境を生んでいます。 さらに、日本の伝統的な住宅は風通しを重視し、冬の寒さへの配慮が不充分で、断熱材が使われていない家も珍しくありません。そのため、冬場の寒さが高齢者の健康に大きな負担を与えることがあります。 加えて、畳が主流の床座の生活では、足腰に負担がかかるため、高齢者にとって立ち座りが大変になってしまうことも問題です。

日本は今、かつてない超高齢化社会に突入しています。厚生労働省のデータによると、2025年、つまり今年には75歳以上の人口が全人口の約18%となり、2040年には65歳以上の人口が全人口の約35%に達すると推計されています。高齢者の住まいの課題は、今や身近で避けられないテーマです。

今回は、この4つの課題をテーマに、建築士、福祉住環境コーディネーター、インテリアコーディネーターが協力し、高齢者が快適に暮らせる住まいをリフォームする物語をビンテージホームストーリーとしてお届けします。これまでとは異なる趣向でお届けする本記事をぜひお楽しみいただき、住まいづくりのヒントにしていただければ幸いです。→第1話・第2話

第3話:「動線を整える」

仏壇を中心とした新しい生活空間を目指し、和室の整理が始まった。専門家たちが提案したのは「動線の確保」。お母さまが日常生活で安全に動けるスペースを作ることが最優先だ。まずは、押入とタンスの整理から手を付けることになった。


押入の整理
押入を開けると、使われていない布団がぎっしりと詰まっていた。押入の中身があふれているせいで、他の日用品や衣類をしまう場所がなくなり、部屋の物が増える原因となっていた。

「この布団、使っていないんですね?」沙織(福祉住環境コーディネーター)が尋ねると、お母さまは「そうだけど、捨てるなんてもったいない」と即座に答えた。

優香(インテリアコーディネーター兼空間デザイン心理士®︎)が穏やかな声で提案する。「お母さま、捨てるのではなく、使うものとそうでないものを分けるだけにしませんか?それで必要なものをすぐに取り出せるように整えるんです。」

息子も「車で実家に持って行くから、預けるだけでいいよ」と援護射撃する。お母さまは少し渋い顔をしながらも、「そうね、少しは片付けてもいいわ」とつぶやいた。

1時間ほどかけて押入を整理すると、中には新しい空間が生まれた。布団の一部を処分し、残りをコンパクトに収納することで、押入の半分が空いたのだ。これで、部屋に散乱していた衣類や日用品をしまうスペースが確保できるようになった。

「これだけで部屋が少し広く感じるわね……」お母さまは、少し驚いた表情を見せた。


タンスの撤去
次に取り組んだのは、2つの大型タンスの整理だ。どちらも長年使われてきたものだが、中には古びた衣類やほとんど使われていない物がぎっしり詰まっていた。

「タンスは1つだけ残して、もう1つ分は押入に収納しましょう。使いやすくなりますよ。」健吾(一級建築士)が提案すると、お母さまは「2つとも必要だと思っていたけど……そうね、1つ減らしてもいいかもしれない」と少しずつ納得していった。

1つのタンスを撤去し、隠れていた壁が現れる。「これなら圧迫感がなくなりますね!」息子が嬉しそうに声を上げると、お母さまも「確かに、こっちの方がスッキリしていいかも」と笑顔を見せた。


仏壇を中心とした空間づくり
整理が進むと、部屋の中心に仏壇を据えたレイアウトが少しずつ形になっていった。優香は、仏壇の周りに清潔感を出すため、小型のサイドテーブルを提案した。「ここにお花やお供え物を置けると、お父さまも喜ぶと思います。」

お母さまはそっと仏壇を見つめ、「そうね……ちゃんとお供えができるのはいいことだわ」と頷いた。

床の間はシンプルながらも落ち着いた雰囲気に整えられ、和室全体が仏壇を中心に「大切な空間」として再構築されていった。


動線が広がる
整理の結果、部屋には新たな広がりが生まれた。座椅子は4つから2つに減らされ、低いチェストは撤去。こたつ周りがスッキリしたことで、お母さまが移動しやすくなった。

「これでつまずく心配も減りますね!」沙織が嬉しそうに声をかけると、お母さまも「確かに歩きやすいわね」と笑顔を見せた。

「押し入れが片付いて、仏壇も明るくなって、お父さんも喜んでるかもしれないわね……」お母さまのその言葉に、息子は思わず目を伏せた。彼女の中に少しずつ変化が生まれているのを感じたのだ。


課題の残り
しかし、まだ家全体の問題は解決していない。冷たい浴室、狭いトイレ、そして冬の寒さ。次の段階では、これらの改善に取り組む必要があった。


次回予告
部屋の整理が進み、動線が広がったことで、お母さまの日常が少しだけ楽になり始めた。しかし、冬の寒さがもたらす問題はまだ解決していない。次は家全体を暖かくするための計画が動き出す――。

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